2015年から当院で積み重ねてきた LR-PRP の臨床経験と
その成果をお話しさせていただきます。
2023年12月16日、神田明神ホールで行われた「第13回JAPSAM PRP・幹細胞研究会」での
当院院長剣持雅彦の講演内容をご紹介します。
※第13回JAPSAM PRP・幹細胞研究会公式ウェブサイト:https://www.13japsamprp.com/
「PRP を使って鏡視下半月板修復できないかな?」はじまりはこんな好奇心からでした。
往時を追懐すれば、再生医療元年。2014-15 年頃には、なーんにもありませんでした。我々の LRPRP を作成する市販キットは当然ありませんでしたし、国際学会の企業展示へ出向いて渉猟するも、本邦で使用可能なコマーシャルキットも限られていましたので、手術室を新築しながら当方のできる最大限の努力を重ねつつハンドメイド LR-PRP を行ってきました。
生涯向学心を忘れず、自己研鑽を怠らず、治療としての手持ちのカードをどれだけ揃えられるか?が我々医師の使命と言えます。
PRP治療を通して、Meniscus injury はもちろんのこと Knee OA, ankle OA, rotator cuff, epicondylitis, achilles tendinitis 等々、従来の保存療法に加えてそれぞれ手持ちのカードを増やせたと実感しております。
今回、2015年から当院で積み重ねてきた LR-PRP の臨床経験とその成果をお話しさせていただきます。
※LR-PRP (Leukocyte-Reduced Platelet-Rich Plasma):
まず、PRP(Platelet-Rich Plasma)は、患者の血液から採取され、その中の血小板が濃縮されたものです。PRPは、成長因子や細胞の再生を促進するとされ、治療目的で広く使用されています。
その中でLR-PRPは、通常のPRPから白血球(Leukocyte)を減少させたものです。特に慢性の組織損傷や関節疾患、筋肉・腱の損傷、あるいは手術後の回復などの治療に用いられます。
1)各疾患一覧
2)我々の半月板修復法は、膜状に加工したPRFを断裂部に挿入して縫い込みます。右は2年後の鏡視下所見です。十分な修復を認めて、症状も寛解しています。
この治療法を行う場合には、現在は全額自費で50万円かかります。
※PRF (Platelet-Rich Fibrin):
PRFは、患者自身の血液から作られる治療材料で、特に血小板と線維を豊富に含んでいます。血液を遠心分離して得られたPRFは、凝固した形態で取り出され、外科手術や歯科治療などで傷口の治癒を促進するのに使われます。
PRFは血小板、成長因子、線維、白血球を含み、これらの成分が組織修復や再生を促進する効果が期待されます。
3)先ほどの半月板修復の術後成績です。非常に良好な治療成績を維持しています。アクティビティーレベル(活動のレベル)も2年まで上昇の一途を認めました。
※Lysholm(Lysholm Knee Scoring Scale):
膝の機能や症状を評価するためのスケールで、膝関節に関する問題や手術後の回復を測定するのに使用されます。
※IKDC(International Knee Documentation Committee):
膝関節に関する臨床的なデータを収集し、膝の機能や状態を評価するための評価ツールを開発しています。
IKDCスコアは、膝関節の損傷や手術の結果を評価するために使用されます。
※JOA(Japanese Orthopaedic Association):
日本整形外科学会の略で、JOAスコアは特に脊椎や関節などに関する疾患の診断や治療の評価に使用されます。例えば、JOAヒップスコアは、股関節の機能を評価するために使われます。
4)これは、外傷性の軟骨欠損を伴っていた半月板修復症例ですが、術後7ヶ月にドリリング目的で再鏡視したところ、欠損部が綺麗な繊維軟骨で覆われていて、驚愕した症例です。半月板も綺麗に修復されていました。
(この所見は従来、滑膜幹細胞治療を行った患者さんに認められるという報告のみでした。)
5)別の症例になります。術後4年半ですが、臨床成績もMRIも非常に良好です。
6)さらに、最近では半月板損傷症例には、初期治療として、4週間ごとに3回のPRP投与を積極的に行っております。合計4回の投与を行いましたが、6ヶ月後には症状も改善し、サッカーの試合にフル出場が可能になりました。
※VAS(Visual Analog Scale):
視覚アナログスケールの略で、VASは、患者が特定の症状や感覚を主観的に評価するために使用される測定尺度の一つです。通常、線の両端に対立する言葉や数字が書かれ、被験者はその中から選んだポイントを示すことで感覚や症状の程度を示します。例えば、疼痛のVASでは、0から10までの線上で、0が「全く痛くない」を示し、10が「最も激しい痛み」を示します。VASは主に臨床試験や患者の症状評価に広く使用されています。
7)6ヶ月で軟骨修復が確認できることはみなさんご承知と思います。また、PRPの関節内濃度のピークは2週で、約4週でほぼ消失するという報告。ヒアルロン酸を維持投与することで臨床成績が安定するという報告を参考に、1ヶ月ごとに1回の投与を計6回続け、パラクラインセオリーによるハーモニー理論を考慮して、関節内のPRP環境を6ヶ月間維持することを考えました。さらに患者さんの金銭的負担を考慮した結果、1ヶ月に1回、合計6回という独自のPRP治療プロトコールを発案しました。
※ハーモニー理論:
ここでいうハーモニー理論とは、関節内の様々な成長因子が相互に作用しあって効果を発揮しているということを指します。
医療界におけるハーモニー理論とは、患者の身体的・精神的健康を維持する際に、異なる医学的アプローチや患者のバックグラウンドを調和させる理念を指します。異なる医療専門家や文化的要素を統合し、患者に最適なケアを提供することが目標です。患者と医療提供者の間で共感と理解を築き、包括的なアプローチを通じてヘルスケアを進める考え方が含まれます。
8)我々のハンドメイドPRPのフローチャートになります。右に投与プロトコールを示します。中でも、関節表面を覆うのに必要な最低投与量を2.5mlとすることと、できるだけ新鮮なPRPの投与にこだわりました。
※KOA(Knee Osteoarthritis):
変形性膝関節症を指します。膝関節の軟骨が減少し、炎症が生じる慢性的な状態です。
通常、加齢や関節への過度な負担、外傷などが原因となり、膝の痛み、腫れ、関節の動きの制限が生じることがあります。
9)投与開始時の関節水腫は、平均で9.9mlでした。2年後の評価ではHA投与およびNSAIDsを必要とする患者さんの数が有意に減少します。つまり、この膝関節内へのPRP投与の介入が医療費を劇的に抑制する可能性を示唆していることが推察されます。
10)24ヶ月までの期間で、K-L分類ごとに、効果の認められた人(レスポンダー)の総数のグラフを比率換算してみますと、赤のグラフが全体平均のレスポンダー率となりますが、変形度合いによる群間差が出ていることがわかります。K-L 4は投与終了後の6ヶ月から低下傾向を認めますが、2年で61.3%と多数回投与することで非常に治療効果が上がっています。
※K-L分類:
K-L分類は、関節リウマチにおける関節の変形度合いを評価するための分類法の一つです。具体的には、K-L分類は膝関節の変形を評価する際によく使用されます。
K-Lは、"Kellgren-Lawrence"の略で、これは関節の変形を評価するための尺度を提案した医師の名前から来ています。
K-L分類は、次のような4つのグレードに関節変形を分類します:
Grade 0 (0): 関節に変形が見られない状態。
Grade 1 (I): 関節空間が広がり、特定の変化が見られる。
Grade 2 (II): 関節変形が進行し、変化がより明瞭になる。
Grade 3 (III): 中等度の変形が見られ、軟骨の減少が進行する。
Grade 4 (IV): 重度の変形が進み、関節間のスペースがほとんどない状態。
K-L分類は、特に膝関節症などの変形性関節症において、関節の進行した変化を簡潔に評価するために広く使用されています。
11)それでは、「いつまで効くの?」と患者さんに聞かれる、最も効果のあったと思われる時期を検証してみました。
12)「PRPは時間経過と共に効いてくる」と言われる所以か、2年目でVASがもっとも低下していた症例が多く、変形度別にグラフ化してみますと、若干、変形度の強いほうがピークが早めの印象を受けますが、活動性の上昇つまりKOOSのPAIN,QOLが時間経過とともに有意に改善している結果と矛盾しません。いずれにせよ、現時点では、2年までは効果が期待できると言って良いと考えています。
※KOOS:
膝関節の機能や症状を評価するための質問紙で、"Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score"(膝の損傷と変形性関節症のアウトカムスコア)の略です。この質問紙は、患者が自己評価を行うためのもので、特に膝関節の損傷や変形性関節症に対する治療の評価に使用されます。
KOOSはいくつかのサブスケールから成り立っており、その中には以下のようなものがあります:
・PAIN(痛み): 膝関節の痛みに焦点を当てた項目で、患者が痛みをどの程度経験しているかを評価します。
・QOL(生活の質): 生活の質に関する項目で、膝の状態が日常生活や活動に与える影響を評価します。
13)次に何回打てばいいのか?に答えるべくVASの最も低下した投与回数をレトロスペクティブに検証しました。
14)比率換算のグラフでは、*K-L1,2では4回をピークとして漸減し、*K-L3,4では4回から6回まで投与回数に応じて増大していました。
15)以上のことから、変形の軽度なK-L1、2は4回、変形の強いK-L3,4は6回あるいはそれ以上がピークとなることが示唆されました。つまり一定程度の回数を定期的に打つことが大切です。
16)6ヶ月でHyper Intensity Zoneの消失が認められる症例はもちろんですが、縮小するケースは、ほぼ良好な治療成績となるので、治療判定の一つの指標になると期待しています。
※BML CHANGE:
骨髄浮腫の変化を指します。骨髄浮腫の状態が変化したことや進行したことを指し、関節や周辺組織の状態が変動していることを示唆しています。
BML:「Bone Marrow Lesion(骨髄浮腫)」骨髄浮腫は、特定の部位の骨髄組織において炎症や変性が生じた状態を指します。関節や周辺の骨において骨髄浮腫が生じることがあり、特に関節の痛みや機能障害と関連していることがあります。
※Hyper Intensity Zone(ハイパーインテンシティゾーン):
MRI(磁気共鳴画像法)で観察される椎間板の一部で、通常は痛みと関連しています。ハイパーインテンシティゾーンは、椎間板の 骨髄内の一部が異常な高信号を示す領域を指します。一般的に、この領域が変性や炎症に関連しています。
ハイパーインテンシティゾーンの消失が認められる症例とは、通常、治療や改善の結果として関連付けられます。例えば、椎間板の変性や損傷が改善し、症状が緩和された場合、MRI上でハイパーインテンシティゾーンが消失していることがあります。これは、治療が有効であり、組織の回復や改善が起こっていることを示唆しています。
17)肩腱板損傷の症例です。 当院では、9例中4例で改善を認めました。投与前、ドロップアームテスト陽性で、MRI像上*不全断裂を疑わせる2症例ですが、2週ごとに3回投与後6ヶ月で、ドロップアームテスト陰性となり、画像上も連続性を認め、ゴルフ18ホールプレイ可能となりました。
18)変形性足関節症の症例です。 KOAのBML CHANGEの経験がありましたので、月1回計4回のLR-PRPを投与を行いましたところ、同様にBMLの消失を認め、立位および歩行時痛の消失も確認できました。
19)この症例も、同様にBML CHANGEが明らかで、立位、および歩行時の疼痛も消失しております。
20)難治性のアキレス腱炎の症例です。 かなり硬結が著しい症例でしたが、2wks 毎に3回投与を行いましたが、緻密結合織には1.5ml注射するのが限界でした。18ヶ月後にはアキレス腱の硬結および炎症も消失し、年後も、再燃を認めておりません。
21)膝前十字靭帯損傷の症例ですって。 当院では、ニードルスコープを使ってACLに直接狙った部位に注入、提示したMRIは不全断裂症例ですが、たわみを伴ったACLが18ヶ月後にはフルマラソンに出場しています。
※ニードルスコープ:
関節鏡(ARTHROscope)の一種で、特に細い針状の形状を持つ内視鏡を指すことがあります。ニードルスコープは通常、細い針状の先端を用いて組織や器官にアクセスする際に使用されます。
※ACL(前十字靭帯):
膝の内部にある重要な靭帯で、特に関節の安定性に寄与しています。
通常、ACLは膝の安定性を維持し、急激な方向転換や激しい運動時において関節をサポートします。しかし、外傷や急激な運動によってACLが損傷すると、その機能が低下し、膝が不安定になることがあります。